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Channel: スポーツナビ+ タグ:日本体操協会
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体操競技でビデオ判定を多用できるか…?

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内村航平選手の金メダル、本当に良かったですね!コールマンを鉄棒の構成から外したり、ゆかで内村選手らしからぬミスがあったり、調子がピークだったとは言えないのでしょうけれど、良くぞ期待通り勝ったと思います。ライバル国、中国のメディアが「文句なしの優勝」と報じてくれるなんて、何とも嬉しい限りです。さて、日本の団体銀メダルの時に採点を巡って一悶着あったのは皆さんご存知でしょうし、当ブログでも'12/7/31「審判目線的、内村航平あん馬レビュー」で取り上げました。オリンピックでは毎回、各競技で大なり小なり判定について問題が起こりますが、日本が関わった事例ということもあり、今大会はビデオ判定などを求める声が特に大きいように思います。よって、今回は体操におけるビデオ判定について考えてみます。まず結論から言うなら、現時点では今以上のビデオ判定をするのは難しいのでは?というのが私の意見です。審判業務って集中力が必要で結構疲れますので、それが楽に正確になるのならビデオの活用は大歓迎ですが、以下の点を考えると難しいのかなって思います。一番の理由はやはり時間とお金でしょうか。オリンピックや世界選手権クラスの大会でしたら、お金は度外視しても良いかもしれません。ただ、団体決勝の内村選手のあん馬のケースを見ても分かるように、見る方向によって印象や採点は変わります。それゆえに審判は器具を囲むように配置されますが、1種目に1台ではカメラは意味を為さないと思うんですね。最低でも2台は必要でしょうし、完璧を期すならそれこそ審判の数だけカメラが必要かもしれません。ちなみに五輪では1種目に9人審判がつきます。今のシステムで何台体制かまでは知りませんが、さらに増設というのは現実的かどうか…?お金の件は序章で、実はもっと問題だと思うのが時間。ご覧の通り、男子体操の大会で、6人が6種目を回ると、必要な時間は概ね2時間半程度です。ただ、もしビデオでのレビューをするのなら、全選手同じように行わないと不公平でしょうから、演技の数だけ採点時間が長くなります。私も採点練習でたまにやりますが、技を研究したり、難しい演技内容を分析したりする時には、当然スロー再生も使う訳で、採点時間は倍の時間では済まないかもしれません。となると、試合の時間が単純計算で5時間くらいにはなってしまう…。観客の皆さん、耐えられますかね…(苦笑)?プロ野球でも平均3時間半程度かかるゲームが長いと言われるご時世。バレーボールなどに至ってはテレビでの放送時間も考慮され、全セットラリーポイント制にルールが変更されたのも今は昔。良くも悪くも、スポーツビジネスやらスポーツマネジメントやらの言葉が幅を利かせている時代ですから、テレビ放送やファンのニーズは当然優先度が高い。今より長い試合時間をファンが果たして許してくれるでしょうか…?また、E得点はともかく、最低でも技の認定に関わるD得点の判定にはビデオを使うべきという意見も聞かれます。問い合わせをすれば、これは今でもやっているのは世界中が知ることになりましたが、全演技でこれをやると前述のような問題が出てきます。となると疑わしいケースのみという発想になりますね。思いつくだけで2つ問題点が浮上するのは、一つは「疑わしい」というものをどう定義するのか…?体操って疑わしいと疑わしくないの境界線に近いものだらけだと思うんですね…(苦笑)。今は各種目本当に高難度になっていますから、選手も体力の限界で演技しています。よって、多くのケースでは、最低限必要なことだけやるのが賢明と捉えている選手が多いようです。例えば、昔はつり輪の力技で4秒くらい止めて審判にアピールする選手は珍しくありませんでしたが(ルール上は2秒静止で減点なし)、今は種目別1種目だけを見据えたスペシャリスト以外ではあまり見かけませんし、無駄に力を使うならもう一つ技をやろうとか、難度を一つ上げようとか考える選手が多いように見受けられます。定規で測るような採点がほとんどできない体操競技。理想は疑いの余地のない演技をすることでしょうけれど、ルールギリギリの技さばきなどが増えてしまう環境と言わざるを得ないと思いますので、当然「疑わしい」ケースも数多くあるわけです。さらに、採点時間にムラがあるのは、選手たちのパフォーマンスに大きく影響することでしょう。競技スポーツを経験された方でしたらお分かりでしょうけれど、自身のモチベーションやパフォーマンスを本当にピークに持って行くには、人それぞれ独自のプロセスや間合いがあると思います。あと1,2分後に演技開始だと思って気持ちを高めていたのに、思いのほか待たされてペースが狂ったり、想定以上に準備時間が短くてあたふたしてしまったり…。4年に1度の大舞台で、選手たちに公平に、最高のパフォーマンスを見せてもらおうという理念があることを考慮すると、こうした時間のムラはキツイですね…。これだけでも理由としては十分かと思いますが、審判目線、もしくは体操経験者目線でもう一点だけ追加します。将来的に変わるかもしれませんが、体操ってアバウトに見えているからこそ良い部分もあると思うんですね。素人目で見た印象や、総合的な評価が的を射ていることも決して少なくないと思いますし。今以上に物理的に正確なジャッジが求められた場合。ルールブックには相当細かく減点の基準が書いてありますが、それでも想定外のケースはしょっちゅう出てきます。今でも180ページ、プラス毎年追加情報が20ページ以上増えるルールがさらに複雑になって、審判はともかくとしても、観る側が分かりにくくなってしまうのは問題かもしれません。そして、スロー映像での判断がスタンダードになってしまうと、演技全体ではなく、一つの技だけで減点の粗探しが可能になってしまい、優勝者のE得点が6点とか7点とかになってしまう心配があるように思います。一応はまだ体操の満点が10点という意識が残っていると思われる今、果たしてこれが適切なのか…?オリンピッククラスの大会でこうした水準になってしまうと、国内の地方大会ではさらに低いレンジでの優勝争いになってしまうかもしれませんし、体操経験の浅い選手の場合、理論上の点数は0点というのが確実に続出します(今でも珍しくありません)。体操協会の審判部の先生方や、色々な先輩審判の考えを自分なりに消化してまとめた結果、私は以下のような考えでいつも審判をやっています。「採点は減点、減点のいじめではない。ルールはあくまで手段であって、目的は演技全体のしっかりとした序列を、適正な点差でつけること。」曖昧で分かりにくいと言われると言い返す言葉があまり見つかりませんが、この考えに基づくなら、技の角度や選手の姿勢などがあまりに正確に見えすぎてしまうビデオ判定は、メリットばかりではないようにも感じます。おそらく多くの皆さんに賛同して頂けると思うのですが、我々ファンがスポーツを見て感動するのは、選手の演技全体であったり、試合というパッケージそのものだったりすると思うのです。もちろん一つの技に驚嘆させられたり、サッカーでしたら素晴らしいゴールに感激するようなことはあっても、少なくても感動を生むのは、92.690という数字そのものではおそらくない。これは内村選手の優勝スコアですが、多くの皆さんは覚えてすらいないのではないでしょうか…?公平、公正な採点はもちろん必要。私自身も少しでも100%に近づくことを目指していつもやっていますし、より良い方法があるのなら大歓迎ですが、限界はどこかに必ずあります。今大会の結果を踏まえて、国際体操連盟(FIG)は来年のルール改正でどのような変更をするのか?今以上のビデオ判定が導入されるのか…?興味深く見守りたいと思います。

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